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PROJECTS 研究内容

腫瘍細胞と微小環境の相互作用による発がんメカニズム

発がん過程では、上皮細胞での遺伝子変異だけではなく、間質におけるさまざまな生体反応が重要な役割を果たしています。 当研究室では、発がん過程における腫瘍細胞と微小環境の相互作用を解明することを大きな目的として胃がんマウスモデル(Ganマウス)を作製し、 それを用いて以下のプロジェクトを中心に研究を進めています。

腫瘍細胞と微小環境の相互作用による発がんメカニズム

Wntシグナル亢進とPGE2経路誘導の相互作用による胃がん発生

胃がん発生過程では、ピロリ菌感染に起因してプロスタグランジンPGE2の産生が誘導されます。 PGE2経路は胃がん発生に重要な役割を果たすと考えられています。一方、胃がん組織の約50%でWntシグナル活性化が観察されており、Wnt亢進は胃がん発生に誘導する重要なoncogenic経路のひとつと考えられています。

Wntシグナル亢進とPGE2経路誘導の相互作用による胃がん発生

そこで、K19遺伝子プロモーターを用いて、胃粘膜上皮でWntシグナルを亢進させたK19-Wnt1マウス、PGE2経路を誘導させたK19-C2mEマウスを作製しました。K19-Wnt1マウスの胃粘膜には微小前癌病変が発生し、K19-C2mEマウスでは胃炎の発生と、同時に粘液細胞からなる過形成病変が発生します。これらのマウスを交配してK19-Wnt1/C2mEマウスを作製すると、100%の効率で写真左のような胃がんが発生し、WntとPGE2双方の経路の活性化が胃がん発生に重要であることが明らかになりました。また、このマウスモデル(Ganマウス)を用いて、腫瘍組織への骨髄由来細胞の浸潤と血管新生機序や、炎症反応がEGFR受容体リガンドやADAMファミリーの発現を誘導することなどを明らかにしました。

Wntシグナル亢進とPGE2経路誘導の相互作用による胃がん発生2

(Oshima H, et al, Gastroenterology, 2006)
(Guo X, et al, J Biol Chem, 2008)
(Oshima H, et al, Cancer Sci, 2009)
(Oshima H, et al, Cancer Sci, 2011)

マクロファージ由来TNF-αによる胃がん細胞のWntシグナル亢進

Wntシグナル変化をGFP強度で観察できる胃がん細胞株を、Wntレポーターベクター(TOPEGFR)を導入して作製しました。この胃がん細胞を、活性化マクロファージの培養上清で刺激すると、GFP強度すなわちWntシグナル強度が上昇します。さらに、この胃がん細胞を各種炎症性サイトカインで刺激した結果、TNF-alphaによりWntシグナル活性が直接増強されることが明らかになりました。

マクロファージ由来TNF-αによる胃がん細胞のWntシグナル亢進

さらに、前癌病変を発生するK19-Wnt1マウスにヘリコバクターを感染させて炎症を起こさせると、Wntシグナル亢進を伴う胃腫瘍が発生しました。以上の結果から、胃がん発生について左図のような仮説が考えられます。遺伝子変異等によるWnt活性化は前癌病変発生の原因となる。ピロリ菌感染による慢性炎症病変では、マクロファージ由来のTNF-alphaにより上皮細胞でのWntシグナル活性がさらに上昇し、胃腫瘍発生に至る。Wntは未分化性維持シグナルなので、胃がん幹細胞維持機構に炎症反応によるWnt亢進機構が関与している可能性も考えられます。

マクロファージ由来TNF-αによる胃がん細胞のWntシグナル亢進2

(Oguma K, et al, EMBO J, 2008)
(Oshima H, et al, Cancer Sci, 2009)
(Oguma K et al, Future Oncol, 2010)

消化管腫瘍発生におけるSox17発現の関与

消化管腫瘍発生におけるSox17発現の関与

腫瘍発生過程でのSox17の役割を解明するためK19-Sox17マウスを作製し、胃がん発生モデルであるGanマウス(K19-Wnt1/C2mEマウス)との交配実験を行ないました。その結果、写真左のようにGan/Sox17マウスの腫瘍組織ではSox17発現上昇によりWntシグナル強度が低下し、腫瘍形成が抑制されました。この結果は、Sox17が腫瘍発生の初期過程ではWntシグナルを抑制性に制御することで、腫瘍の悪性化を阻止している可能性を示しています。

消化管腫瘍発生におけるSox17発現の関与2

(Du YC, et al, Gastroenterology, 2009)

細菌感染とPGE2の相互作用による胃がん発生機序

腸管内常在菌による感染刺激が、腸粘膜上皮の恒常性に重要であることが報告されています。胃内はpHが低いために常在菌数は少ないのですが、胃がんモデルであるGanマウスを完全に無菌化して飼育すると、胃の腫瘍発生が顕著に抑制されました。また、無菌Ganマウスにヘリコバクターを感染させると、腫瘍発生が誘導されました。したがって、細菌感染刺激は胃がん発生に何らかの役割を果たしていると考えられます。

細菌感染とPGE2の相互作用による胃がん発生機序

Ganマウスの胃腫瘍ではPGE2経路の活性化により炎症が発生してマクロファージが浸潤していますが、無菌化(germfree)Ganマウスの胃組織にはPGE2経路が誘導されていてもマクロファージが浸潤していません。したがって、感染刺激とPGE2の相互作用がマクロファージ浸潤に関与すると考えられます。SPFで飼育したGanマウスにclodronate liposomeを投与してマクロファージを枯渇させると、腫瘍間質や腫瘍細胞の変性および萎縮性変化が認められました。したがって、浸潤マクロファージが胃がん発生に重要であると考えられました。

細菌感染とPGE2の相互作用による胃がん発生機序2